誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
それぞれの思い
その後、私は久しぶりに屋敷へと戻り、本邸の階段を見つめた。
いつも、この階段を見るときは、いいことがない時だ。エアコンが入っているはずだが、建物自体は古いせいかかなり足から寒さを感じる。
私の部屋はまだあるのだろうか。そんなことを思っていると、前を歩いていた円花がクルリと向きを変えた。
「天音、あんたが使っていた離れは、今はもう物置になっているのよ」
私がいなくなってから、もうあの離れは物置になっていることを知るが、それほど驚きはしなかった。私の部屋などあるわけがない。
「松原、どこか物置でも天音にあたえておきなさい」
叔母のその言葉に、ため息が零れそうになる。どこでもいいが、あまり寒いのは赤ちゃんに悪いはずだ。せめてストーブだけでも宗次さんに用意してもらわなければ。
そんなことを思っていた時だった。バンッ! 大きな音がして木製の二枚扉がすごい勢いで開くのが見えた。
「悠希さん……」
無意識に零れ落ちた私は、彼と離れると決めたのに駆け出したくて仕方がない。