誰も愛さないと言った冷徹御曹司は、懐妊妻に溢れる独占愛を注ぐ
 しかし、ささやかだが幸せな生活。そんな日も終わりを告げた。

 ようやく地元の国立の法学部に入学してもうすぐ一年というところで、両親はふたり仲良く事故で亡くなった。

 朝、普通に『行ってきます』と大学へと行った私が、次に両親に会ったのは、町の小さな警察署の霊安室だった。眠っているのではないかと思うほど、安らかな顔のふたりだった。しかし、もう笑いかけてくれることも、話を聞いてくれることもない。

動かない両親を見て、呆然とすることしかできず、悲しさも涙もどこかに置いてきてしまったようだった。ただ大きな喪失感だけが、私の心を支配していった。

 今思い返しても、あの頃の記憶は曖昧で、頭に霞がかかったような気がする。どうして私だけこんなことばかり起こるのか。神様など存在しない。そんな自暴自棄な気持ちが溢れて、押しつぶされそうになっていたように思う。
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