片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
 それでも気になるのだ。実際に昔好きだった人に「気持ち悪い」と言われ、引かれてしまったのだから。

 しかし私の心配をよそに、伊織さんはまったく気にすることなく小さく息をついた。

「どうでもいいですよ。そんなこと気にしません」
「そんなことって――」
「すみません、言い方が悪かった。仕事上、重度の熱傷を負った患者の治療もしますし、見慣れてると言っても過言ではないくらいで。どんなに目立つものでも、気持ち悪がったり引いたりしませんよ。もし医師でなかったとしても」
「っ……」

 形成外科はあまり馴染みのない診療科ではあるが、主に身体の表面の異常や変形に対しての治療を行っているらしい。私自身も当時火傷を負った際に、形成外科にお世話になったのだとか。

 伊織さんが言う通り、医師である彼にとっては私の火傷の痕など大したことはないのかもしれない。もっと言えば見慣れているし、結婚相手に求める条件に肌の綺麗さなんて入っていないのだろう。

 彼としては何とはなしに答えたのだろうが、決して痕を見ることもせず「引いたりしない」と断言してくれたことが嬉しかった。本当に、彼だったら何も言わずに受け入れてくれそうな気すらしたのだから。

「逆に気になるなら、診せてもらえませんか。完全には治せるとは言い切れませんが、目立たなくすることはできるかもしれません」
「い、いえ。それは大丈夫です……。これまでたくさん治療はしてきたので」

 二十年以上も残ってる痕なのだ。もう綺麗にできないことくらい、自分が一番よく分かっている。加えて、いくら伊織さんが医師であっても、彼に見られるのは気が引けた。

「そうですか……もし気になったらいつでも。とにかく気にしないですよ。それ以外の容姿に関して言えば、緋真さんは美人だと思います」
「へっ?」
 
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