片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜




 散々愛し合ったあとで、まだ熱の残る素肌を互いにぴとりと寄せ合う。
 たった今まで扇情的な表情を浮かべていた伊織さんの表情は、いたく優しい。

「ごめん、無理させて」
「ううん、大丈夫だよ」
「このままじゃ風邪引くか。ちょっと待って今――」

 伊織さんが体を起こすと、しっとりと重なっていた体が冷め始め、寂しさを覚える。
 それが嫌で、再び彼を引き寄せていた。

「緋真?」
「もう少しだけ、こうしてたい……」

 生まれたままの姿で汗ばんだ体を重ねると、全身に彼を感じられて心地が良い。できることなら、このまま眠りにつきたいとさえ思ってしまう。

 なのに、頭上からは少し困った声が落ちてきた。

「いいけど……またしたくなるかも」
「えっ……!」
「あらためて、俺たちって結婚初夜もなかったから、ちゃんとやり直さないと」
「や、やり直すって……」

 口を塞ぐように、唇が重なる。
 彼にとろとろに甘やかされた体は、抵抗する余力すら残っておらず、されるがままで。
 明日のことも何も考えられないくらい、伊織さんが与える快楽の濁流へと飲み込まれていった。


 ――抱き合っている間、伊織さんが何度も「愛してる」と呟いてくれたから、私も声に鳴らない声で何度も愛を伝えた。

 だけどやっぱり言葉にする余裕はなかったから、明日朝起きたら一番に伝えよう。

 いや、明日だけじゃない。毎日でも伝え合いたい。
 これから何十年、彼と共に生きていくのだから――。


Fin

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