片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
 誰に対しても分け隔てなく向き合う誠実さと、人一倍気配りができる優しさ。そして、仕事への真摯な姿勢。彼は人としてもパートナーとしても尊敬に値する人物だ。

 それ故に、伊織さんのような男性と結婚できたことを、この上なく幸せに感じていた。

「ごちそうさま。今日も美味しかった」
「お粗末様でした。それじゃあ片づけちゃうね」
「俺がやるよ。洗い物くらいはさせて。と言っても洗うのは食洗器だけど」
「ふふ、大丈夫だよ。私今日は休みだったし、食洗器に入れちゃうだけだから」

 伊織さんの分の食器をまとめて片づけると、彼はどこか申し訳なさそうにお礼を言う。

「すごく助かるけど、そこまで完璧にやらなくていいよ。緋真には負担をかけたくないんだ」
「うん、ありがとう。でも無理はしてないよ?」

 一緒に暮らし始めて、家事のほとんどは私に任せてもらっている。伊織さんは事あるごとに手伝ってくれるが、収入や労働時間を比較しても、家事を半々にするというのは気が引けるのだ。

 幸い私は料理が得意だし家事もそこそこできるので、今のところ何も苦には感じていない。逆に彼の役に立てているのなら本望だった。

「……それなら、お願いしようかな。それと、前も話したけど明日は飲み会があるから夕飯はいらないよ。遅くなるかもしれないし先に寝てていいから」
「わかった」
「じゃあ、俺は先にお風呂いただこうかな」

 伊織さんはそう言ってリビングをあとにする。その背中を横目に、片づけを開始した。

「……よし、頑張ろう」

 私たちの新婚生活は、こんな感じで上手く行っている。お見合い結婚なんて、と思った自分が愚かに思うほどだ。むろんそれは、相手が伊織さんだからという前提があるのだけれど。

 とにもかくにも、この一カ月間は大きな問題もなく穏やかに過ごせていた。
 ただひとつ、ある悩みだけを除いては――
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