片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
熱心な生徒
◇
翌朝、浮かない気持ちのまま職場へと向かう。勤め先の料理教室は商業施設の一角に入っており、他の教室と比べても開放的な内装が特徴的だ。
人によってはヘルプで違う教室の授業へ駆り出されることもあるが、私は基本的に異動なしで勤務させてもらっている。
朝一の授業の準備を進めていると、同僚の大荒郁(おおあら いく)が、眠たげな表情で声をかけてきた。
「緋真ちゃん、おはよ~。この時間に会うの久しぶりだね」
「おはよう。そうだね、私今週シフト少なかったから」
「最近全然会えなかったから、寂しかったよ~」
ハイトーンのミルクティーベージュの髪をまとめあげ、肌は粉砂糖のように白くきめ細やか。細く長いまつげから覗く色素の薄い瞳は日本人離れしていて、まるでお人形さんのような見た目をしている。
郁ちゃんとは学生時代に通っていた料理教室で知り合い、年齢が一緒だったこともありすぐに仲良くなった。
大学卒業後、彼女はそのまま講師として就職、私は一度食品会社へ就職をしたあとで講師へと転職をした。その際に、今の料理教室に口を利かせてくれたのが郁ちゃんだったのだ。
「ねね、今度ご飯行こうよ。終わりの時間合わせて」
「いいね、最近話せてないし。あとでスケジュール確認しよっか」
「やった~! 緋真ちゃんの新婚話聞きたい!」
郁ちゃんは天真爛漫で、同い年だというのにやや幼い印象を受ける。しかしながら、そこがなんとも愛らしく彼女の魅力のひとつでもある。
そして伊織さんとも結婚前に一度顔を合わせたことがあり、私たちがお見合い結婚である事情などは大方理解していた。