片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「ですよね? 実は私も好きな人に手料理食べてもらいたくて、料理教室に通い始めたんです」

 ぱっと顔を綻ばせた彼女は、瞳までキラキラ輝かせており、恋する乙女のよう。好きな人のために苦手な料理を頑張るのは、健気で好感が持てた。

「それなら頑張って上達していきましょう。私も協力しますから」
「わあ、緋真先生にそう言っていただけて嬉しい。相手の方、お医者さんなんです。同じ職場に勤めてるんですが、いつも忙しそうで。だから健康的なご飯のほうが体にいいかなって」
「……そう、なんですね」

 伊織さんと同じ職業にドキリとしつつ、平静を装って相槌を打つ。聞けば智美さんは普段医療秘書として働いているらしく、今日は休みなのだとか。

 医療秘書とはその名の通り、医療機関で医師や看護師のサポートが主な仕事で、仕事内容としては一般企業の秘書と似たような業務も多いという。伊織さんの勤める病院にも医療秘書の方がいて、以前彼から話を聞いたことがあった。

 秘書と聞くと漠然と美人なイメージを持っていたが、あながち間違ってはいないようだ。

 智美さんも、童顔ではあるが顔立ちは整っている上にスタイルもいい。さらに年齢の割には喋り方も落ち着いていて育ちの良さを感じた。さぞかしモテるだろう。
 
「ちなみに、緋真先生は家ではどんなものを作られるんですか?」
「SNSに上げているものは、どれも家で作るものですよ。夕食作りとあわせて撮ることも多いので」
「特別ご主人が好きなものとかありますか?」
「ええ? どうでしょう……。だいたい何でも食べてくれるので」
「……では、緋真先生の投稿参考にさせていただきますね」
「は、はい? ぜひ」

 何故わざわざそんなことを聞くのだろうか。純粋にファンとして慕ってくれているような素振りを見せるが、智美さんの発言にはやや違和感がある。

 しかしながら言及するほどではなく、また適当に話を切り替えて作業を再開した。
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