片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「う、うん。わかった……あ、荷物とジャケット預かっちゃうよ」
「ありがとう。それじゃあ頼む」
寝室に荷物を置きに行く伊織さんを止め、必要なものを預かると、彼はそのままお風呂場へと直行した。
何食わぬ顔でクローゼットを開け、ジャケットをハンガーへとかける。後ろめたい気持ちで鼻を近づけると、やはり左腕の辺りに花の蜜のような甘い香りが付着していた。どこかで嗅いだことのあるような匂いだが、少なくとも私のものではない。そもそも香りものなんてつけないのだから。
今日は飲み会って言っていたし、たまたま匂いがついただけかもしれない……でも、職場の飲み会で? しかも左腕だけ?
考えれば考えるほど疑心暗鬼になってしまい、思考を振り払う。気を取り直して鞄をしまうと、今度は彼のシックな革の鞄にそぐわない光り物が目に入った。
「これ……」
外ポケットに引っかかっていた金属を手に取る。見ればひねりの効いたシルバーのフープピアスで、決定的なものに言葉を失った。伊織さんはピアスはしないし、それ以前にこれはどう見ても女物だ。
そもそも医療関係の女性が、香りものやピアスを付けるのだろうか。いや、多少のお洒落は問題ないのかもしれない。
それに飲み会だったなら、単純に付き合いでキャバクラなどの夜の店に行くことも考えられる。……想像したくはないけれど。
――だとしても、だ。ここまで痕跡を残して帰宅することがあるだろうか。
ざわざわと胸騒ぎがする。私たちはお見合い結婚で、未だ男女の関係すら築けていない。彼が外で他の女性と会っていたとしても、何ら不思議なことではない気がした。
伊織さんを問い詰める? どこで誰と飲んでいたんですかって? ううん、そんなこと聞けない。
それなら、すべて見なかったことにするべきか。普通にできるの? 私……。
「ありがとう。それじゃあ頼む」
寝室に荷物を置きに行く伊織さんを止め、必要なものを預かると、彼はそのままお風呂場へと直行した。
何食わぬ顔でクローゼットを開け、ジャケットをハンガーへとかける。後ろめたい気持ちで鼻を近づけると、やはり左腕の辺りに花の蜜のような甘い香りが付着していた。どこかで嗅いだことのあるような匂いだが、少なくとも私のものではない。そもそも香りものなんてつけないのだから。
今日は飲み会って言っていたし、たまたま匂いがついただけかもしれない……でも、職場の飲み会で? しかも左腕だけ?
考えれば考えるほど疑心暗鬼になってしまい、思考を振り払う。気を取り直して鞄をしまうと、今度は彼のシックな革の鞄にそぐわない光り物が目に入った。
「これ……」
外ポケットに引っかかっていた金属を手に取る。見ればひねりの効いたシルバーのフープピアスで、決定的なものに言葉を失った。伊織さんはピアスはしないし、それ以前にこれはどう見ても女物だ。
そもそも医療関係の女性が、香りものやピアスを付けるのだろうか。いや、多少のお洒落は問題ないのかもしれない。
それに飲み会だったなら、単純に付き合いでキャバクラなどの夜の店に行くことも考えられる。……想像したくはないけれど。
――だとしても、だ。ここまで痕跡を残して帰宅することがあるだろうか。
ざわざわと胸騒ぎがする。私たちはお見合い結婚で、未だ男女の関係すら築けていない。彼が外で他の女性と会っていたとしても、何ら不思議なことではない気がした。
伊織さんを問い詰める? どこで誰と飲んでいたんですかって? ううん、そんなこと聞けない。
それなら、すべて見なかったことにするべきか。普通にできるの? 私……。