片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
 安堵しながらも昨夜のことを意識してしまい、なるべく視線を彼に向けないように声をかけた。

「朝ごはん食べられそう? 飲み会だったし、雑炊にしたけど」
「助かるよ。飲み会の翌日は胃の調子が悪いんだ」

 やはり昨日は酔っていたのだろう。そう考えれば辻褄が合う。

 それなら、あのピアスは……? 伝えなければ、伊織さんは気付かないかもしれない。でも、どういうテンションで聞けばいいの?

 また悶々とした気持ちに襲われていると、伊織さんが心配そうな顔で覗き込んできた。

「……どうかした? 体調でも悪い?」
「あ、ううん。そうじゃないけど――っ」

 起き抜けの温かな手が額に触れる。瞬間、昨日のキスがフラッシュバックして頬が熱くなった。

「熱はなさそうだけど……顔赤い?」
「っ、ううん、平気だよ。すぐ用意するね」

 伊織さんの横をするりと抜け、朝食の準備を再開する。

 きっと彼にとっては、妻の体を案じての行動だ。しかし、昨日を含めて直接的に私に触れるのは初めてで、慣れないことに動揺が収まらない。まったく、経験が少ない自分が恨めしい。

「そうだ。今度郁ちゃんとご飯に行こうって話してるんだけど、夜家空けてもいい? 来週あたり」
「もちろん大丈夫だよ」
「ありがとう。夕飯は冷蔵庫に入れておくし、なるべく遅くならないようにするから。また日程決まったら言うね」
「俺のことは気にせず楽しんでおいで。食事も適当に済ませるし、緋真ももっと自由にしてくれて構わないから」
「……うん」

 緋真“も”か。昨日までは、単に優しい言葉だと思っていたけれど、今は変に勘くぐってしまう。人は、一度疑ってしまえば、そう簡単にはなかったことにはできない。

 これから伊織さんとどう接していくべきなのか。考えても考えても、到底答えは見つからないように思えた。

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