片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「それに結婚して一カ月で不倫相手にのめり込むのは早すぎるかな~って思うんだよね。今が一番ラブラブな時じゃない?」
「うーん、それは何とも。もともとラブラブって感じでもないんだよね……」
「どういうこと? この間は上手く行ってる感じだったのに」

 食い入るように見られ、誤魔化すようにグラスのマドラーをかき混ぜる。

 しかしながら、元々郁ちゃんには相談しようと思っていたことだ。意を決してずっと抱えていた悩みについて切り出すと、彼女は戸惑ったように頭を抑えた。

「えっと、待って……。結婚して一緒に住んでるのにしたことないって……出会ってから一度もってこと?」

 こくりと頷けば、郁ちゃんはやっと意味を理解したのか、興奮気味に身を乗り出した。

「緋真ちゃん、それはマズいよ! 向こうだって絶対溜まるし、外で発散されても仕方ないやつだよ? あ、不倫は絶対ダメだけど……」
「そういうものかな……?」
「うんうん。男と女なんだから、夜の生活もちゃんとしないと。しかも新婚さんなんだし今たくさんしないでどうするの!?」

 見た目こそ幼い印象を与える郁ちゃんが性的な話をしているのは、何だか変な感じだ。少なくとも私なんかより経験豊富であることは重々承知しているけれど。

「でも、どうして? 伊織さんすっごいイケメンなのに。やっぱり異性として見れないとか?」
「あ、いやそうじゃなくて……なかなかそういう雰囲気にならなくて……」
「え……伊織さんが緋真ちゃんに興味ないってこと?」
「うん……。私に魅力がないのかも」

 「興味ない」はさすがに傷つくけれど、要はそういうことだろう。悲しいことに、彼は最近まで私に触れることすらしなかったのだから。

 郁ちゃんはあまりに話が衝撃的だったのか、へなへなとテーブルに項垂れた。

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