片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
 あまりにストレートに思いを伝えてしまったせいか、伊織さんからの返事はない。羞恥で顔を上げられずにいると、彼の手が頬を撫でた。

 誘われるように顔を上げれば、私の本心を探るような色濃い瞳がこちらを見つめていた。

「……本気で言ってる?」

 普段から私は冗談を言うタイプではない。それは伊織さんもわかっているはずだ。敢えて聞くのはきっと、真意を確かめたいからなのだろうか。

 いずれにしても、先ほどの言葉を取り消す気はない。しっかりと頷けば、彼の顔がすぐそばまで近づいてきて、キスの予感にゆっくりと目を閉じた。

 暗闇の中で、唇に柔らかい感触が触れる。サラサラとして少しだけ温かい。控えめに押し当てられた唇は、まるで何かを確かめるかのようにそこから動こうとはしない。

 じっとこらえていると、微かな吐息が唇を撫で、上下の唇をゆっくりと食み始めた。

「っ……」

 数回食まれると、乾いた唇が次第に潤いを持つ。気持ち良いよりも幸せで心が満たされていくのを感じていると、微かに開いた唇から熱い舌が差し込まれた。

 行く先を定めず、浅いところで蠢いたそれに、ぎこちなく舌先を絡ませる。粘膜を辿られながら深いところで絡み合えば、堰を切ったように激しいキスに変わった。

 たまに漏れる吐息まで飲み込むような口づけに、頭がくらくらとしてくる。

 無我夢中でキスを交わしたあと、至近距離で視線が絡んだ。窺うような瞳に囚われ、引き寄せるように伊織さんの腕を掴めば、彼は首元へと顔を埋めた。

「ぁっ……」

 耳の近くで、控えめなリップ音が響き渡る。腰の曲線に沿ってしなやかな腕が伸びてきて、先ほどとは違う感覚に身を強張らせた。

「……硬くなってる。緊張してる?」
「だい、じょうぶ……」

 途中でやめてほしくなくて、精一杯に呟く。しかし、鼓動は加速するばかりだ。
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