片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
 自分でもわかるほど岩のように硬くなった体は、思うままに動かすことができない。

「本当に?」

 言いながら、伊織さんが緊張をほぐすように絡めとった手に口づけを落とす。
 気遣ってくれているのだとはわかりながらも、表情はどこか扇情的だ。

 ――たった数秒前に強がったばかりだけれど、彼には取り繕ったところで意味がない。

「うそ……本当はすごく緊張してる。はじめて、なの」
「え……」
「上手くできないと思うし、面倒かもしれないけど……」

 それでも、伊織さんに抱かれたい。その思いをどう伝えればいいかと視線を彷徨わせていると、密着していた熱い気配が遠ざかっていった。

「伊織さん……?」

 ”はじめて”がいけなかったのだろうか。完全に行為を止めてしまった彼は、程よい距離を保って私を見つめた。

「……さっきどうして抱いてほしいなんて言ったのか聞いてもいい?」
「それは……。私たち結婚したのにいつまでも夫婦らしいっていうか、そういうことがないから、不安で……」
「不安?」
「伊織さんにとって私は魅力がないのかなとか、逆に我慢させてるのかなとかいろいろ考えちゃって……」

 伊織さんはいつだって優しくていい夫でいてくれるけれど、彼の本心はまったくわからない。勢いで不安をぶつければ、彼は小さく息をついた。

「……ちゃんと話しておけばよかったか」
「ちゃんとって?」
「緋真に魅力がないわけじゃない。ただ、俺たちは恋愛結婚ではないし、緋真の気持ちが追い付いてくるまでは何もしないつもりだった」

 そう言って、伊織さんの指がさらりと私の髪を梳いた。

「勇気出して言ってくれたんだよな。ごめん、緋真にそんなこと言わせて」
「そんな……」
「でも不安が理由なら、焦らないで。緋真がはじめてだって言うなら尚更、ちゃんと抱かせてほしい。流れでじゃなくて」
「っ……」

< 36 / 100 >

この作品をシェア

pagetop