片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
 それでも、白鷹さんが迷惑行為を行ったとなれば、相手が誰であろうと怯むつもりはない。

「問題ないよ。院長だってちゃんと話せばわかってくれるさ」
「そんな……いいんですか、私があることないこと言うかもしれませんよ? 伊織先生に弄ばれたとか」
「事実無根だな。そもそも白鷹さんはそんなことする人じゃない」
「わからないですよ。私だって――」
「もし話すなら、こちらも院長に相談させてもらうよ。妻のこと」

 被せるように告げると、まさか俺にバレているとは思わなかったのか、白鷹さんは目を見開く。本人に伝えるのは迷ったが、今後のためにも伝えておく必要があると判断した。

「この間のピアスの件、疑いたくはなかったけどわざとなんだろう。飲み会の日、体調が悪いからタクシーで途中まで乗せてほしいと言ったのも演技だった? 妻を怪しませるために」
「そ、それは……その……」

 ついきつい言い方をしてしまったが、真実であることは彼女の様子を見ればすぐにわかった。きっと、いつも真っ直ぐに好意を向けてきてくれた彼女のことだから、そこまで悪女にはなりきれないのだ。
 
「……ああいうことは、もうやめてもらえるかな。これ以上、妻を不安にさせるようなことはしたくないんだ。白鷹さんとは院長の娘さんだからとかではなく、これからも同僚として良い関係を気付けていけたらと思ってるよ。こちらも支えてもらっているしね。業務上で困ったことがあれば相談に乗るから」

 白鷹さんは俯きながら、完全に黙りこくってしまった。

 はっきりと口で好意を伝えられなかったから避けていたが、遅かれ早かれきちんと話すべきだったのだ。

 しばしの沈黙の後、どう話を終わらせようかと考えを巡らせていると、白鷹さんがおもむろに口を開いた。

「どうして……あの人と結婚したんですか?」
「どうしてって……」
「やっぱり納得いかないです。 本当は、私が……私が伊織先生と結婚する予定だったのに。あの人、伊織先生の弱みに付け込むなんて許せない」

 俺が白鷹さんと結婚する予定だった? 何を言っているんだ、彼女は。
 それに、弱みに付け込んでって――

「私は認めません。二人が結婚されていたとしても、絶対に諦めない」
「白鷹さん――」

 俺の言葉を待つ前に、白鷹さんは診察室を飛び出して行く。

「……困ったな」

 しばらくは様子を見たほうがいいかもしれない。それから、必要があれば院長に相談しよう。緋真との結婚も心から祝福してくれた彼は、きっとわかってくれるはず。

 だけど――初めて見る白鷹さんの憎悪が混じった眼差しに、嫌な胸騒ぎがした。


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