片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「そういえば、料理はいつから?」
「うーん、それが物心ついたときにはもうって感じで……」
父の勤め先、神花リゾートが運営する施設は社割が適用することもあり、昔から家族で旅行することが多かった。幼いながらに各地でいろんな料理を食べさせてもらったことで、いつの間にか自分でも作れるようになりたいと思い始めたのだ。
就職活動時は安定した職に就こうと一度は大手食品会社に入社したけれど、やはり料理の道は諦めきれず今に至る。
「生粋の料理好きだ」
「どうだろう……。あ、でも、ひとつだけ覚えてることがあるんだ。小さいころにね、ホテルの厨房でシェフが料理してるのを見たことがあって。すごく感動しちゃったんだよね」
それがどこのホテルなのか、自分が何歳の時なのかも覚えていない。ただ、プロの洗練された技術やパフォーマンスに圧倒されたことだけは、未だにぼんやりと記憶があるのだ。
「だから、たぶんそれが原点だと思う。と言っても私はシェフになったわけじゃないけど」
「……そっか。料理に携わった仕事をしているんだから、すごいことさ。ちゃんと夢を叶えてる」