片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜


 食事のあとは、腹ごなしに近くの神社を訪れる。ここは心願成就や開運厄除、縁結びなど、多様なご利益が期待できる運開きの神様として信仰されており、関東でも屈指のパワースポット。普段から神頼みはするタイプではないが、神社など日本ならではのわびさびを感じられる場所は好きだ。

 中でも撮影スポットとしても有名なのが、芦ノ湖に佇む鳥居。せっかく来たのだから写真に収めておきたいと、目的の場所へ向かう。その間、伊織さんは自然に手をつないでくれて、初めてのデートのようなドキドキを覚えた。

 石段をゆっくり下っていくと、先客に思わず足を止める。

「わぁ……」

 視線の先には真っ赤な鳥居と視界いっぱいに広がる湖。その中心で、黒の紋付き袴の男性と、豪華絢爛な色打掛の女性をカメラマンが囲んでいた。フォトウエディングか前撮りだろう。

「綺麗だね……」

 幸せそうな新郎新婦に釘付けになっていると、伊織さんがこちらを覗き込んだ。

「緋真も綺麗だったよ」
「ど、どうしたの急に」
「式の当日、ちゃんと伝えてあげられなかったの後悔してたんだ」
「え……」

 言われてみれば結婚式当日は、何だか慌ただしくて伊織さんとゆっくり話す時間もあまりなかった。特別気にしてはいなかったが、このタイミングで伝えられると照れくささが込み上げてくる。だけど、それ以上に――

「……伊織さんもかっこよかったよ。和装、すごく似合ってた」

 あの日、私もずっと言いたくて言えなかった言葉。直視できないほど、彼はかっこよかったのに。言えなかった理由は恥ずかしさからというより、お見合い結婚の手前、そのような言葉を言っていいか迷ったからだった。

 改めて伝えると、伊織さんはゆるりと口角を上げる。

「よかった。欲を言えば、洋装も見てみたかったな」
「ああ、そっか……」

< 49 / 100 >

この作品をシェア

pagetop