片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
◇
そのあとも近くを観光し、予定より早く宿に到着した。瓦製の床材が敷き詰められたガラス張りの長い廊下を通り、離れの部屋へと案内される。
部屋で出されたお茶と共にお着き菓子をいただきながら、まったりとした時間を過ごすつもりが、ちらちらと視界に入る白い靄が気になって仕方がない。
「夕食まで少し時間があるけど、先に温泉でも入ろうか」
「えっ!」
平然と言われ肩を震わせる。
温泉にでも入ろうかって……。
伊織さんが予約してくれた宿は、全室に客室露天風呂付きの高級宿。私としては神花リゾート所有のホテルでも問題ないといったが、彼がそれでは面白くないとこの宿をとってくれたのだ。
通常であれば二人にしては広すぎる部屋も、目を見張る巨石の露天風呂も、非日常空間を演出するすべてに気分が上がるだろう。こんな豪華な部屋に泊まる機会などないのだから。けれど、部屋に露天風呂がついていたことで緊張が勝ってしまう。まだ初夜すら迎えていないのに一緒に入るのか、と。
何も言わない伊織さんに戸惑っていると、やがて彼は小さく笑みをこぼした。
「ごめん、冗談だよ。ちゃんと中からは見えないようにできるから、先に入っておいで」
「でも、伊織さんは……」
「俺もあとからゆっくり入るから、気にしないでのんびりしてきて」
私の気持ちを汲んでくれてほっとするが、同時に普通の夫婦なら一緒に入るのかと思い、少し寂しい気持ちになる。
促されるまま入浴の準備を始めようとすると、伊織さんが「でも」と付け足した。
「あとで一緒に入ろうか。夜にでも」
「っ、うん……」
やけに艶っぽい声で告げられ、心臓が早鐘を打つ。夜というのは”事”の前なのか後なのか。冷静に考えれば後だろうけれど。どちらにしても、急なことに動揺を隠しきれない。
この調子で、本番まで持つのか――不安に思いながらも、準備を整えたのだった。
そのあとも近くを観光し、予定より早く宿に到着した。瓦製の床材が敷き詰められたガラス張りの長い廊下を通り、離れの部屋へと案内される。
部屋で出されたお茶と共にお着き菓子をいただきながら、まったりとした時間を過ごすつもりが、ちらちらと視界に入る白い靄が気になって仕方がない。
「夕食まで少し時間があるけど、先に温泉でも入ろうか」
「えっ!」
平然と言われ肩を震わせる。
温泉にでも入ろうかって……。
伊織さんが予約してくれた宿は、全室に客室露天風呂付きの高級宿。私としては神花リゾート所有のホテルでも問題ないといったが、彼がそれでは面白くないとこの宿をとってくれたのだ。
通常であれば二人にしては広すぎる部屋も、目を見張る巨石の露天風呂も、非日常空間を演出するすべてに気分が上がるだろう。こんな豪華な部屋に泊まる機会などないのだから。けれど、部屋に露天風呂がついていたことで緊張が勝ってしまう。まだ初夜すら迎えていないのに一緒に入るのか、と。
何も言わない伊織さんに戸惑っていると、やがて彼は小さく笑みをこぼした。
「ごめん、冗談だよ。ちゃんと中からは見えないようにできるから、先に入っておいで」
「でも、伊織さんは……」
「俺もあとからゆっくり入るから、気にしないでのんびりしてきて」
私の気持ちを汲んでくれてほっとするが、同時に普通の夫婦なら一緒に入るのかと思い、少し寂しい気持ちになる。
促されるまま入浴の準備を始めようとすると、伊織さんが「でも」と付け足した。
「あとで一緒に入ろうか。夜にでも」
「っ、うん……」
やけに艶っぽい声で告げられ、心臓が早鐘を打つ。夜というのは”事”の前なのか後なのか。冷静に考えれば後だろうけれど。どちらにしても、急なことに動揺を隠しきれない。
この調子で、本番まで持つのか――不安に思いながらも、準備を整えたのだった。