片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「やっぱり~! 早く話聞きたい~! でも、緋真ちゃんはもう上がりだもんね?」
「うん、実家に帰るんだ。だから、また今度ゆっくり」
どちらにしろ、郁ちゃんと話すのは少し先になりそうだ。彼女は残念そうに息をついたあと、「超楽しみにしてる!」と無邪気な笑顔を浮かべた。
そんな風に、ハードルを上げられるとプレッシャー……。
それでも惚気ることがあるというのは、幸せなことで。その事実にまた嬉しくて心が躍った。
◇
仕事を終えて、郁ちゃんよりも一足早く教室を出る。エレベーターを降りると、ビルの入口を出たところに見覚えのある女性がおり、一瞬呼吸が止まった。
彼女は私を見るとゆっくりと歩み寄ってくる。明らかに私を待っていたような雰囲気だ。
「智美さん……」
「今少しお時間いいですか?」
智美さんの口角はしっかりと上がっているが、目は笑っていない。今日は教室の予約も入っていなかったし、一体何をしに来たのか。
伊織さんとの件があり、これ以上彼女と関わりたくはないのに。
「すみませんが、これから用事があるので……」
そそくさと逃げようとすれば、「すぐ済むので」と、圧をかける声に肩を震わせた。
「緋真先生も、私に付きまとわれたくはないでしょう?」
「っ……」
言うことをきかなければ、何度も会いに来るという口ぶりだ。これは今後の為にも言うことを聞いておいたほうがいいかもしれない。
諦めて頷くと、彼女に向き合った。
「……本当に用事があるので、少しでしたら」
「もちろんそのつもりです。私も長く話したくはないので。今日は、緋真先生にお願いがあって来ました」
道行く人々が行き交う中、周りに目もくれず智美さんが口を開く。
「お願いとは?」
「単刀直入に言いますけど、伊織先生と離婚してください」
「は……」
「うん、実家に帰るんだ。だから、また今度ゆっくり」
どちらにしろ、郁ちゃんと話すのは少し先になりそうだ。彼女は残念そうに息をついたあと、「超楽しみにしてる!」と無邪気な笑顔を浮かべた。
そんな風に、ハードルを上げられるとプレッシャー……。
それでも惚気ることがあるというのは、幸せなことで。その事実にまた嬉しくて心が躍った。
◇
仕事を終えて、郁ちゃんよりも一足早く教室を出る。エレベーターを降りると、ビルの入口を出たところに見覚えのある女性がおり、一瞬呼吸が止まった。
彼女は私を見るとゆっくりと歩み寄ってくる。明らかに私を待っていたような雰囲気だ。
「智美さん……」
「今少しお時間いいですか?」
智美さんの口角はしっかりと上がっているが、目は笑っていない。今日は教室の予約も入っていなかったし、一体何をしに来たのか。
伊織さんとの件があり、これ以上彼女と関わりたくはないのに。
「すみませんが、これから用事があるので……」
そそくさと逃げようとすれば、「すぐ済むので」と、圧をかける声に肩を震わせた。
「緋真先生も、私に付きまとわれたくはないでしょう?」
「っ……」
言うことをきかなければ、何度も会いに来るという口ぶりだ。これは今後の為にも言うことを聞いておいたほうがいいかもしれない。
諦めて頷くと、彼女に向き合った。
「……本当に用事があるので、少しでしたら」
「もちろんそのつもりです。私も長く話したくはないので。今日は、緋真先生にお願いがあって来ました」
道行く人々が行き交う中、周りに目もくれず智美さんが口を開く。
「お願いとは?」
「単刀直入に言いますけど、伊織先生と離婚してください」
「は……」