片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「お二人がお見合い結婚だということは知っています。今どきお見合いなんて……緋真先生も他に結婚したい方がいらっしゃったのではないですか? 心中お察しします」

 彼女に何の権利があって、こんなことを言っているのだろうか。突拍子もない発言に、開いた口が塞がらないというのはこのことだ。

 私が何も言わないのをいいことに、智美さんはまた言葉を続ける。

「伊織先生だって、同じ気持ちだと思うんです。だけど彼はとっても優しいから、受け入れるしかない……だから緋真先生から言ってくれませんか? 幸いまだお二人は結婚されたばかりですし、お互い傷は浅いうちのほうがいいですよね。長く一緒にいれば情が湧いてしまいますから」
「……えっと、ごめんなさい。そんなことあなたに言われる筋合いはないですし、私は離婚なんてするつもりはないので」
「この結婚が伊織さんを苦しめてるとしても、同じことが言えますか?」

 苦しめる……? どうして、そんなこと。

「夫婦のことなので、智美さんには関係ないですよね? そういうお話ならこれ以上は何も言うことはないので、失礼します」

 軽く会釈をして、智美さんの横を通り抜ける。
 けれど、次に放たれた彼女の言葉に耳を疑った。

「伊織先生は、緋真先生が可哀想だから結婚してあげたんですよ。被害者ぶって彼の弱みに付け込んで、何とも思わないんですか?」
「何、を……」

 “結婚してあげた”とか、“弱みに付け込んで”とかそんな言い方。私が何をしたっていうの……?
 
「何の話か見当もつきませんみたいな顔して、白々しいにもほどがありますよ。全部計算のうちだったんですよね? そうでもなければ、伊織先生があなたとの結婚に前向きになるわけないじゃないですか。病院長の娘である私と結婚したほうが、今後の彼のステータスにもなるんですから」
「すみませんが、本当に何を仰ってるのか――」
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