片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「伊織さん、おかえりなさい。あれ、私……」
「ごめん、気持ちよさそうに寝てたから迷ったんだけど。明日は仕事だろうし、このまま寝かせるのもどうかなと思って」
「あ……」
時刻は夜の九時を回っている。随分長い間眠っていたのだと気付き、飛び起きた。
「ごめん……! 寝ちゃってたみたい……すぐご飯用意するから」
「特に用意がなかったみたいだから作ったよ。俺もさっき帰ってきたところだから、簡単なものだけど」
「うそ……!」
「もし緋真もまだだったら一緒に食べよう」
伊織さんは一人暮らしが長く、簡単な料理は作れると聞いていた。だけどこうして彼に作ってもらうのは初めてだった。
「ごめんね……伊織さん、疲れてるのに」
自分は休みだったにも関わらず、出張帰りの伊織さんの手を煩わせてしまったことを、申し訳なく感じる。しかし彼は小さく首を振った。
「これくらい気にしないで。緋真こそ珍しいね、ソファで寝るなんて。疲れ溜まってた?」
「ううん、私は大丈夫……」
昨夜眠れなかったせいだと言って、余計な心配をかけたくない。
立ち上がろうとすると、伊織さんに手を引かれ額がこつんとぶつかった。