片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
自宅への道を軽い足取りで進んでいくと、マンションのエントランスの近くに佇む人影に足を止めた。
「え……」
予想外の人物に、理解するのに時間を要する。
私たちの姿を見つけて歩み寄ってきた人物――それは智美さんだった。
「……どうして白鷹さんが」
伊織さんも、なぜ彼女がここにいるのかと戸惑っている様子。
そして、何かを感じたのか私をそっと背中のほうへと隠した。
「伊織さん……?」
「緋真は、何も言わなくていい」
そう言い切った伊織さんからは、ただならぬ雰囲気を感じる。
すぐそばまでやってきた智美さんに視線を移すと、彼女は虚ろな目で私たちを見ていた。
「思ったより遅いお帰りでしたね。デートですか?」
「……白鷹さんには関係ないことだよ。どうしてここへ?」
「同じ職場なんですから、伊織先生のお家くらい調べればすぐわかりますよ。でも残念、私は緋真先生に会いに来たんです」
「用件は? もう妻には関わらないでくれと言ったはずだけど」
「私、言うことを聞くとは言ってませんよ」
あくまで冷静さを欠かない伊織さんに、智美さんはどこか苛立っているようにも見える。
それにしても、なぜ私に会いに来たのだろうか。
もしも今日、伊織さんと一緒に帰宅していなかったら、彼女に待ち伏せをされていたのだと思うと、背筋がゾッとした。
「とにかく、家まで来られるのは困る。さすがにこのことは――」
「ねえ伊織先生。どうして緋真先生なんですか? 昔怪我をさせたからですか? 責任をとって結婚したんですよね? 事実上夫婦ってだけで、仕方なくですよね?」
伊織さんの話を遮って、智美さんが矢継ぎ早に質問を重ねる。
つらつらと壊れた機械のように出て来る言葉に、恐怖すら覚えた。
「……なぜ、白鷹さんがその話を? 院長から聞いた?」
「え……」
予想外の人物に、理解するのに時間を要する。
私たちの姿を見つけて歩み寄ってきた人物――それは智美さんだった。
「……どうして白鷹さんが」
伊織さんも、なぜ彼女がここにいるのかと戸惑っている様子。
そして、何かを感じたのか私をそっと背中のほうへと隠した。
「伊織さん……?」
「緋真は、何も言わなくていい」
そう言い切った伊織さんからは、ただならぬ雰囲気を感じる。
すぐそばまでやってきた智美さんに視線を移すと、彼女は虚ろな目で私たちを見ていた。
「思ったより遅いお帰りでしたね。デートですか?」
「……白鷹さんには関係ないことだよ。どうしてここへ?」
「同じ職場なんですから、伊織先生のお家くらい調べればすぐわかりますよ。でも残念、私は緋真先生に会いに来たんです」
「用件は? もう妻には関わらないでくれと言ったはずだけど」
「私、言うことを聞くとは言ってませんよ」
あくまで冷静さを欠かない伊織さんに、智美さんはどこか苛立っているようにも見える。
それにしても、なぜ私に会いに来たのだろうか。
もしも今日、伊織さんと一緒に帰宅していなかったら、彼女に待ち伏せをされていたのだと思うと、背筋がゾッとした。
「とにかく、家まで来られるのは困る。さすがにこのことは――」
「ねえ伊織先生。どうして緋真先生なんですか? 昔怪我をさせたからですか? 責任をとって結婚したんですよね? 事実上夫婦ってだけで、仕方なくですよね?」
伊織さんの話を遮って、智美さんが矢継ぎ早に質問を重ねる。
つらつらと壊れた機械のように出て来る言葉に、恐怖すら覚えた。
「……なぜ、白鷹さんがその話を? 院長から聞いた?」