片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「今回の件、娘が迷惑をかけて本当に申し訳なかった。父親として娘の異変に気が付かないとは、情けない。お二人にはどうお詫びしたらいいか」
「そんな、私はこの通り何ともなかったので……」
「いいや、そういう問題ではないんだ。緋真さんの職場や自宅にまで押しかけるなんて、正気の沙汰じゃない。一歩間違えたら取り返しのつかないことになっていたというのに」
どうやら一連の流れを、伊織さんから聞いたようだった。結婚式のとき、優しそうな笑みを浮かべていた白鷹院長は、今は苦し気に顔を強張らせている。
智美さんが伊織さんを慕っており、お見合いを望んでいたことは知っていたが、私たちの結婚話が進んでからは話題に出さなくなったという。だから、白鷹院長も気に留めていなかったのだとか。
「もちろん、病院は辞めさせるし、お二人にはもう二度と近づかせないと約束するよ。治療が終わったらしかるべき処置もとらせてもらう。謝って済む話ではないが、申し訳ない」
再び深々と頭を下げられる。白鷹院長に対して怒りなど負の感情があったわけではないが、こういう時どう返せばいいのか言葉が見つからない。
代わりに、先ほど智美さんに言われた言葉を思い出して口を開いた。
「あの……私の火傷を治療してくれたのが、院長先生だというのは本当でしょうか?」
「それは……」
まさか私が知っていると思わなかったのか、白鷹院長は伊織さんと目を合わせる。伊織さんが小さく頷くと、白鷹院長はゆっくりと肯定した。
「娘には詳しいことは話していなかったんだが、どうやら私は娘の情報収集能力を甘く見ていたようだ。緋真先生自身のことも、よく調べていたみたいだから、そのせいで今回のことを招いてしまって申し訳なかった。……あの時、緋真さんの傷を完治させてあげられなかったことも含めて」
「え……」
「できれば、残らないようにしてあげたかった。痕が残ってしまうことは予想していたが、二十年以上も苦しませていたなんて……」
院長先生は何も悪くないのに。悲しそうな顔をされて、胸が締め付けられる。