片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
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その夜。箱根でのフォトウェディングで想像以上に疲労を感じていた私たちは、普段より早い時間にベッドへと潜り込んだ。
伊織さんとしてはホテルに泊まりたかったようだが、あいにく明日はお互いに仕事がある。早めに入ったベッドの中で体を寄せ合いながら、伊織さんはおもむろに口を開いた。
「前にも話したけど……背中の痕、俺に治療させてくれないかな。完全に元通りっていうのは無理でも、今より目立たなくすることはできるかもしれないから」
出会ったときに、言われた言葉。あの時は単純に、彼に痕を見せることに躊躇われたのもあるし、今まで治療してきての結果なのだから半ば諦めていた自分がいた。
今なら恥ずかしさもなく見せられるが――
「……ありがとう。でも、大丈夫。もう気にしないから」
「本当に?」
綺麗さっぱり元通りになるならば、願ったり叶ったりだ。でも、そうはいかない。
ならば、背負っていくしかないのだ。
「前に言ってくれたでしょう? この傷も愛しいって。伊織さんがそう言ってくれるなら、このままでもいいのかなって思えたの」
あの言葉は、きっと建前じゃない。何の根拠もないけれど。
それに、これは結果論でしかないが、今の私たちを繋いだものだから。