片恋慕夫婦〜お見合い婚でも愛してくれますか?〜
「あと、伊織さんにしか見せないしね」
「ああ、見せられたら困るな」
そう言って私を抱き寄せると、服の上から伊織さんの手が背中をなぞった。くすぐったいような、気持ちが良いような感覚に身を捩ると、至近距離で視線が絡んだ。
言葉もなく唇を合わせる。音を立てながら啄むようにキスを重ねていくと、舌先でちろりと唇を舐めとられた。キャンディーを舐めるかのような彼の舌に、自分からも絡めてみるが、浅いところで舌先が遊ぶだけ。なかなか深くならないキスは、焦らされているよう。
「……意地悪」
「どうかした?」
「……もっと、したい」
伊織さんのシャツを掴み、再び唇を寄せる。今度はしっかりと応えてくれて、すぐに熱い舌を差し込まれた。
唇の裏側をなぞって、歯列を辿り、口蓋を満遍なく侵していく。喉にまで届いてしまいそうなキスに酔いしれて――体に触れられてもいないのに、股の間にじんわりと熱いものを感じ、無意識に太腿をこすり合わせた。
「っ……」
伊織さんが目ざとく私の太腿に触れると、ゆっくりと撫でまわす。
キスだけでこんなに感じてるなんて、恥ずかしい……。
そう思ったのも束の間、腰を引き寄せられ、さらに密着した部分に硬いものが触れた。
「あ……」
触れたのは紛れもなく伊織さんの熱い塊で、彼も感じてくれているのだと思うと、どうしようもなく体の奥が疼いた。
「キスだけで十分?」
合わせていた伊織さんの唇が頬を辿り、耳元へ近づくと、吐息とともに彼が呟く。
ゾワゾワとした痺れが体を走っていき、お腹の辺りがきゅんとした。
「……足りない」
「うん、俺も。もっと緋真に触れていたい」
その先の言葉はなかった。
今この部屋には、互いに求め合う二人を止めるものなどいないのだから。
再びねっとりと口づけを交わし、溺れてしまいそうなほど幸せで甘美な夜に陶酔したのだった。