BODY BLOW ~Dr.剛の恋~
亮平は、私が高校生時代の担任だった。
いつも無表情で、笑顔を見せない数学教師。
興味も接点のなかったはずの彼と私は、バイト先で出会ってしまう。

当時の私は、学校には内緒のホテルのウェイトレスをしていた。
祖父母との3人暮らしのため、学費の足しにと始めたものだった。
深夜のほうが時給がいいからと、夜の11時までのバイトを週3日。
化粧もして、髪形も変えて、ばれるはずないと思っていたのに・・・
「平井、何してるの?」
飲み物を運ぶ私の腕を急につかむ男性。

「え?」

はじめは誰だか分らなかった。
その日は、地元大学OBの忘年会。
知り合いなんていないはず。
カジュアルな服装。
優しい笑顔。
ちょっと酔っている感じの若い男性。

「こら、担任の顔を忘れるな」
コツンと、おでこを小突かれた。
「ええっ、野崎先生?」

嘘。
笑顔なんて見たことない。
名前を呼ばれたこともない。
なのに・・・

「担任がクラスの生徒を忘れるはずないだろう。バカ」
バカって。

結局、バイトの終わりまで待って家まで送られた。
ああこれで停学は間違いないと思ったのに、先生は学校に黙っていてくれた。

「これで、何かあれば俺もただでは済まない。悪いと思ったら、できるだけバイトの回数は減らして、時間も9時までにしろ」
後日呼び出された職員室で言われびっくりした。

その瞬間、まだ子供だった私は野崎先生に恋をしてしまった。
よく考えたらたった5歳しか違わないのに、先生はいつも大人で私の前にいてくれた。
ただ黙って、彼の後ろを歩いていけば私は幸せなんだと思えた。

高校を卒業し、2年ほど付き合って20歳で結婚。
すぐに奏太が生まれた。
先生のご両親は結婚に大反対だったが、奏太が生まれると私を受け入れてくれるようになっていった。
幸せだった。
奏太がいなくなるまでは…
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