BODY BLOW ~Dr.剛の恋~
医局に入り、コーヒーを入れて仕事にかかる。

まずは受け持ち患者の状態を確認してから、院内メールもチェック。

プププ ププ
ちょうどPHSが鳴った。

今日の俺は休日扱い。
ここにいるなんて知っている人間は居ないはず。

「はい。桜井です」
幾分不愛想に、俺はPHSに出た。

『桜井先生ですか?守衛室です。外線でモリカワユウキさんとおっしゃる方が先生に繋いで欲しいと、電話が掛かってきていますが・・・』

「モリカワユウキ?」
覚えがないなあ。
患者の家族だろうか?

最近はマンションや車のセールス電話がよくかかる。
正直に名乗れば繋いでもらえないのが分かっているから、みんな知り合いを装ってかけてくる。

『ヒライさんのことでお伝えすることがあると、おっしゃってますが…』

ヒライさん?
ヒライ・・・モリカワユウキ?
ん?裕貴くん?

「繋いでください」

「もしもし、桜井です」
『剛先生ですか?』
やっぱり。

「どうしたの?宝に、何かあった?」
何かなければ連絡なんてしてこないはずだ。

『宝さんが警察に。鈴子さんも一緒です。店はとりあえず閉めたんですが…もうめちゃくちゃで…』
よほど慌てているんだろうか、話が伝わて来ない。

「裕貴くん落ち着いて。順を追って話してみて」
『はい』
電話の向こうで、深呼吸する音。

『店に来た感じの悪い客が暴れだして、鈴子さんともみあいになって、止めに入った宝さんも突き飛ばされて。俺、警察を呼んだんです』
「うん。で、宝は今どこ?」
『警察に連れていかれました』
なんで?
まずは病院だろう?
『鈴子さんも一緒に連れていかれて帰って来ないんです』

帰ってこないって…

「どのくらいたつの?」
『店を出てのが2時頃でした』
今が午後5時だから、3時間。

「わかった。俺も連絡してみるから。店のほうは大丈夫?」
『はい。現場聴取も終わって、片づけて戸締りしてあります』
「そう。ありがとう。また連絡するから」
何かわかれば連絡する約束をして、俺は裕貴くんの電話をきった。

まずは宝に電話をかける。
プー プー プー
コールはするがやはり出ない。

今度は鈴子に。
プー プー
『もしもし』
出た。

「鈴子?」
『剛さん?』
「ああ。今どこ?宝も一緒?」
珍しく、自分が慌てているのが分かる。

『今、警察署です。宝も一緒に』
「怪我は無い?」
『ええ』
幾分力ない声。
「宝は?」
『まだ、話しています』

事情聴取が終わらないのか?

「俺もそっちに行くから、待っていて」

デスクの整理も早々に医局を飛び出した。
宝たちが連れていかれた警察署までは、車で20分。
不安と怒りの気持ちを抱えながら、俺は警察署に急いだ。
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