BODY BLOW ~Dr.剛の恋~
「桜井くん」
野崎さんが真っ直ぐ俺を見る。

「はい」
彼の改まった口調に、俺も軽く姿勢を正してしまった。

「今回のことについて、宝からどのくらい聞いているの?」

どの位って言われても・・・
「僕は何も聞いていません」

「何も?」
不思議そうな顔。

こんな時、「何があったんだ」と問い詰められるような性格なら良かったのにと思う。
でも、無理なんだ。
言わないならそれでいい。仕方ないと思ってしまう。

「本当に、何も聞いていないんです」

「君たちは、きっと似たもの同士なんだね」
あきれた顔の野崎さん。

すると突然、彼が立ち上がった。

「え?野崎さん?」

いきなり立ち上がった野崎さんは、座布団を降り、部屋の隅まで行き、畳の上に直接正座すると、両手を畳につけて深々と頭を下げた。

「の、野崎さん」
一体何のつもりなんだ。

慌てて駆け寄り手を取ろうとするが、野崎さんは動かない。

「やめてください。お願いですから、頭を上げてください」
しかし、彼は土下座の姿勢を崩さない。

どの位そうしていただろう?
短い時間だったようにも思える。

「説明してください」
俺はいつもの自分に戻っていた。

腹をくくったというのが適切だろうか?
もう、彼の前で取り繕う必要は無いと感じた。

両手は畳に付いたまま、頭を起こした野崎さん。
「今回の事件の発端はネットの書き込みなんだ」

ネットの書き込み?
あの、誹謗中傷?

「どういうことですか?」

野崎さんは今日の事件の発端となったネット書き込みの内容について説明してくれた。
もちろん、彼自身も宝から聞かされたわけではなくて警察で聞いた話らしい。
それを聞いてやっと、宝が事件の詳細を話したがらない理由も納得できた。
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