浮気性の公爵に「外見も内面も最悪」と離縁されましたが、隣国の王太子は見染めてくれたようです~自由気まま少々スリリングな生活を満喫中です~
 そんなことになれば、アレックスが気の毒すぎる。

 作家にとって、作品は命を削って作り上げた物。それこそ、母親がわが子をこの世に産み落とすのと同じくらい苦しみぬいて作り上げる。

 それを、いとも簡単にアイデアを盗まれるとか、そもそも原稿じたいを盗まれるとかしたら、口惜しすぎるし悲しすぎる。
 それこそ、この世の終焉を目の当たりにするほどの気持になってしまう。

 すくなくとも、わたしだったら立ち直れない。

 盗んだ奴を見つけ出し、血祭りに上げる程度にしか気力がなくなってしまう。

「いや、クミ。いまはもう、そういう問題じゃないんだよ……」

 アレックスが何か言ってきたタイミングで、隠れ家から出て来た兵士たちをかきわけ、だれかが現れた。

 それに気を取られてしまったから、アレックスの言葉はきこえなかった。
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