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男が一人店に入ってきた。


あれ――?


その男もどこかで会ったような気がした。


ひょろ長い身体に寸足らずの黒いジャケットを羽織っている。

切れ長の目でせわしなく店内を見回してから、カウンターのほうに寄ってきた。

終始、薄笑いを浮かべていた。


「やあ、ヒルカワさん」

マスターが上機嫌なのか不機嫌なのかよくわからない顔で男に声をかける。どうやら常連客らしい。


「よう店長。いつものね」

ヒルカワと呼ばれた男は、女から一つ間を置いたスツールに腰かけた。

ジャケットの胸ポケットから煙草を取り出し、店のマッチで火をつける。


僕は思わず舌打ちをした。

女に声をかけるタイミングを失ってしまったからだ。

しかし――二人とも見覚えがあるなんて妙だな。
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