キスだけでは終われない

声をかけてくる人たちに軽く会釈をして、カナを目掛けて足早に近づいていく。すると彼女の隣に知っている男が立っていて、その男の手が彼女の背中にあるのが見えた。

彼女は俺の友人の片山修一と一緒にいた。

二人の親密そうな様子に今度は足が沼にはまったかのように重くなる。

彼とは大学が同じ学部でゼミも一緒だったし、境遇も似ていて親しくしていた。

何故、二人が一緒にいるんだ?

思わず自分の目を疑いたくなる光景に目を背けたくなったが、冷静さを必死に保ち近づいて声を掛けた。

「よう。久しぶりだな」

修一の笑顔が妙に腹立たしかった。

「おう。元気だったか」

「修一も元気そうだな。そちらの女性は?」

「あぁ、紹介するよ。彼女は高梨香苗さん。今、彼女と付き合ってるんだ…」

何気ない顔をして会話を続けていたが、内心はこれ以上ないほど動揺していた。

あんなに恋しかった彼女にようやく会えたのに、別の男の横に立つ姿を見せるなんて…なんて残酷なことをするんだと思った。

従兄で秘書の和樹に修一を引き止めてもらっている間にカナを捕まえて話をした。
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