キスだけでは終われない
「俺が…俺の方が先に会っていたのに…」
そう呟き、拳を握る手に力がこもる。
「何だって?」
浩介が怪訝な顔してくる。
「あのさ。少し落ち着いたら。いつも冷静なお前が平常心をなくすくらいの理由はなんなんだ?あの子は友達の彼女なんだぞ。何も同じ女でなくてもいいじゃん」
「…できない」
「はあ?」
「諦めるなんてできない」
「お前さ…そんなこと言うなんて、変わったな。女なんて寄って来るものは拒まないし、去るものは追わない主義だったんじゃないの?」
「俺が初めて自分から欲しいと思った人なんだ。彼女以外はいらない」
浩介の呆れたため息が聞こえてきたが、そんなことは聞こえない振りをしてウィスキーを呷り続けた。
「えっと、香苗さんは確かに美人だと思うし、性格も穏やかそうだし?魅力的だと思うけどさ〜。こればっかりはどうにもならないじゃん」
「俺は横浜で彼女を見かけた時から、気になっていたんだ。男たちに絡まれていたところを助けて、一度この手に抱いたんだぞ。そんな簡単に諦められるかよ」
「お前がそんなに熱くなるなんてな。本気で惚れちゃったの?あぁ…俺、友だちが同じ女巡って争うのなんて見たくないんだけどな…」
「彼女に男がいたら奪えばいいと思っていたが、俺だって修一と争うなんて想像していなかったさ」
今日はいくら飲んでも酔えそうになかった。