キスだけでは終われない
いつも以上に口数が少ない私のことを、ただ疲れただけと思っていたみたいだったのが、申し訳なくてよけいに苦しい。
私のマンションに着き、車を停めたところで「香苗さん」と呼ばれ運転席から身を乗り出してきた修一さんにフワッと抱きしめられた。
「時間ができたら電話するよ」と耳元で囁かれ、体がビクッとした。次いで耳元にあったはずの彼の唇が私の唇に触れた。
別れ際にいつもしてくれていたキスは、指先から手に移り、昨夜のデートの時は額にされた。今夜のキスは唇だった。
私にとっては二度目のキス。一度目のキスとは正反対の穏やかな優しいキスだった。
彼の温かい手が頬に触れ、優しく包む。唇を優しく食むようなキスに胸が痛くなった。
「ダメだ。止まらなくなりそうだ…。香苗さん、行って。今日は疲れたでしょう」
修一さんの手と腕が私から離れた。
唇へのキスに驚いていた私は自分の口に手を当て頷いた。不意打ちすぎて思考が追いついていなかった私は頷くだけしかできなかった。
「おやすみなさい。ゆっくり休んで」
「おやすみなさい…。あの…気をつけて行ってきてください」
「ありがとう」
いつも笑顔で手を振り見送ってくれる彼。
私がマンションのエントランスに入るのを、いつも見届けてから発進していく。
本当に優しい人…。
優しすぎて…私はどうしたらいいの?
しばらく会えないことが寂しい…はずなのに、柾樹に会ってしまったことで複雑な気持ちになってしまった私は、申し訳ないことに少しホッとしていた。