キスだけでは終われない

シンガポールで出会ったマサキのことは、今でも私の中で鮮明に残っている。想い出にはできていなかった。

本当は会いたかった…。
なんで逃げ出してしまったんだろう。そんな風に後悔していたこともあった。

まさか須藤ホールディングスの副社長で、しかも修一さんのお友だちだったなんて…。

修一さんとお付き合いするって決めたばかりなのに、また会ってしまうなんて…。どうしたらいいのかしら……。
考えれば考えるほど深みにはまっていくようだった。

今日は月曜日、どんなに悩んで睡眠不足であろうとも仕事に行かなくてはならない。寝不足で少し頭痛はするが、仕事をしている間は忙しさもあり余計なことを考えずにすんだ。

それでも休憩時間など、ふとした時に考えてしまう。

修一さんは昨日から出張で日本にいない。時差もあるし、仕事も忙しいだろうと思うと私から電話するなんてできない。電話がかかってきたところで、何を話したら良いか正直今は分からない。

柾樹は?日本にはまだいるの?もうシンガポールに帰ってしまったの?

再会した日から私の頭の中は柾樹でいっぱいになっている。

「もう。考えたらダメだって…」

はぁ…と大きなため息と言葉が溢れる。もう思い出さないと決めていたはずなのに、思い出すたびに記憶に上書きをしてしまうのか、シンガポールでの出来事を思い出してしまった。
< 111 / 129 >

この作品をシェア

pagetop