キスだけでは終われない

家を出て二人並んで歩いているとなぜだかすれ違う人の視線を感じ落ち着かない。途中で彩未ちゃんのスマホが鳴り、ごめんね、と言って電話に出る。急な仕事の電話のようだ。

「ごめん。うちのブライダルでお世話になっているホテルでランチを取ろうと思って予約していたんだけど、そのブライダルで足りないものがあるとかで、私はお店に寄ってから行くから香苗は先に横浜に行ってていいわよ」

「うん。久しぶりの横浜だから美術館にでも行ってくるね」

「一人で美術館か…まぁ大丈夫かな。それじゃ12時にイル・ピュ・フィーネのロビーに来て」

「大丈夫って、何が?」

「思わず声をかけたくなっちゃうくらい可愛いから少し心配になっただけよ。もう子供じゃないし…気をつけてね。じゃあ、後でね」

「じゃあ、12時にイル・ピュ・フィーネのロビーね」

「早く終わったら連絡するね」と言い、急いで仕事に向かう彩未ちゃんと別れ、美術館へ向かう。

美術館に入るとすぐに階段があり二階へ上がっていく。スカートなんて久しぶりだから階段の段差がなんだか気になる。それに普通に歩いているだけなのにいつも感じることのない人からの視線が気になった。
< 12 / 129 >

この作品をシェア

pagetop