キスだけでは終われない

「大丈夫?」

心配そうに声をかけられても、簡単には頷くことができずにいた。

「とりあえず、ゆっくり呼吸して。吸って…吐いて…。あそこのベンチまで歩ける?」

まだ恐怖から声を出すことはできなかったが、首を縦に振ることはできた。
その男性は私の体を支えベンチまで歩かせ座らせてくれた。

そして、彼は私の横に座りまだ震えの止まらない私の手を彼の大きくて温かい手で包んでくれた。

「怖かったんだよな…。もうあの男たちはいなくなったから大丈夫だよ」

男性が苦手だったけれど、社会人になってから仕事で接する機会も増えて、だいぶ慣れてきていたと思っていたが、あんな風に初対面の人にいきなり腕を掴まれたりするのはやはり怖かった。

…この人…私の気持ちがわかるの?
…なんだか…温かくて…安らげてる?

「ごめんね。いきなり。困っているように見えたから思わず声をかけてしまったんだけど…」と少し身を乗り出すように斜め前から、心配そうな顔をして私の様子を窺ってきた。

すると体の震えが収まってきて声が出せるようになっていた。

「…あの、…助かりました」

「本当に?もう大丈夫?」

「ちょっと…驚いてしまって…。だ…大丈夫…です」

「本当に?」

心配そうに私の顔を見てくる。

「はい。あの…助けてくれてありがとうございました」

お礼を言うとニコッと笑顔を見せてくれた。
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