キスだけでは終われない
その時に初めて彼の顔を見てドキッとした。
男性なのに“麗しい”そんな感想が頭に浮かんだからだ。
その彼は時間が気になるのか腕時計を何度か見ていた。
「あの、もう大丈夫です。ですから用事があるなら行ってください。本当にもう平気です」
「そう…。それじゃ、一人にさせて悪いけど、そろそろ時間が厳しくて。ごめんな」
すっと立ち上がった彼は私の手を取り立たせてくれた。隣に立つ彼はとても背が高く、ヒールのおかげでいつもより高くなっている163センチの私よりかなり高かった。
離れていく彼の後ろ姿を見ていると数歩進んだところで振り返り、「今度は声かけられても、はっきりと断るんだよ」と言って笑顔で颯爽と去っていった。
振り返ってくれるとは思ってもいなかったので、胸がドキンとしてしまった。
耳に残る鼓膜を振るわせるような、そんな素敵な声だった。まだ、あの男性の声が頭の中で響いている。そんな初めての経験に呆けていると彩未ちゃんから着信があり、待ち合わせのホテルに急いで向かった。