キスだけでは終われない
久しぶりに入るホテル”イル・ピュ・フィーネ”に着くとすぐに彩未ちゃんが私を見つけてくれた。
「香苗、ここよ」
「ごめん、彩未ちゃん。遅くなっちゃって…」と口にするとエレベーターに乗り、そのまま予約をしているレストランの前に行く。
「大丈夫よ。入りましょう」と予約の名前を告げると、窓際の席へ案内される。
「ねえ素敵でしょう。海が遠くまで見えるのよ」
水平線が上から見下ろせる景色を見て、彩未ちゃんが嬉しそうに話し出す。
「いいでしょう。景色も良いし、それにここのイタリアンは美味しいのよ。この前、ブライダルの打ち合わせに来た時に食べたんだけど、見た目も芸術的というか、香苗も気にいるかなと思って」
「…う…ん…」
まだ心が落ち着かず、どこか呆然としていて気のない返事をしてしまう。
「香苗、何かあったの?」
心配そうな顔をした彩未ちゃんにはきっと隠しておくことはできないと思い、「…うん…あのね、ここに来る前に…」とことの顛末を話した。