キスだけでは終われない

「ごめんね。やっぱり一人で行かせなければ良かったわね。今日の香苗、可愛いから私でも声を掛けたくなっちゃうな~、なんて思っていたんだけど、そんないきなり腕を引っ張るような強引な奴らに目をつけられちゃうなんて」

「うん…本当に驚いたし…なにより腕を掴まれた瞬間にパニックになっちゃって…」

「でも、助けてくれる人がいて良かったわ」

「本当に…。あの人が声をかけてくれなかったら、どうなっていたのかって考えるとまた手が震えてきちゃう」

話していたら少し思い出してしまい、また恐怖に手が震え出すが、彩未ちゃんの手が私を包んでくれて落ち着きを取り戻す。

「…今ここに一緒にいられて、本当に良かったわ。その男性に感謝ね」

「うん。本当に良かった」

私が笑顔を見せると彩未ちゃんは安心してくれた様で「さぁ、いただきましょう」と促した。

食材の良さもあり、とても美味しい。

美味しいものを美味しいと感じられる、そんな当たり前のことができて良かったと思った。それはあの通りすがりで助けてくれた男性がいたから今があるのだろう。そう考えたら、もっときちんとお礼すれば良かったと連絡先も聞かなかったことを少し後悔した。
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