キスだけでは終われない
「おはようございます。……部長、あの、そちらの方は…?」
と声をかけてきたのは私の2年先輩の加藤さん、彼はスポーツマンタイプのイケメンで仕事も出来るので、なかなかにモテているらしい。
暁斗兄さんはニヤニヤと含み笑いをしている。
私はいいから早く言って、と思いつつも自分からは言い出し難くて俯いている。
「あぁ、そうか誰だか分からないか。そうだよな。だそうだよ、高梨さん」
「えっ。高梨さん!?」
「は、はい」
顔を上げづらいけど、仕方ない、と諦めて加藤さんの顔を見て笑顔で「おはようございます」とぎこちない笑顔で返した。
暫くの沈黙の後、目を見開いて「驚いたよ。高梨さんだったとは…」と、加藤さんの口から零れてきた。
その日はいつも通りに挨拶しても返事がなくジロジロ見られたり、驚かれたりして、落ち着いて仕事をする雰囲気ではなくなってしまっていた。