キスだけでは終われない

「あぁ、すみません。服に掛かってしまいましたよね。服、弁償させてください。このショッピングセンターの中でお好きなブランドとかあればそこに行きましょう」

服の弁償なんて必要とは思えなかったし、なんだかそこまでしなくてもと思うくらいにしか服には掛かっていない。それでも真剣な顔で対応してくる男性に若干引きぎみになる。

「あの、そこまでしていただかなくても、スカートの裾の方が少し濡れたくらいなので、大丈夫です。なので、本当に気にしないでください」

そう言って離れようとしたところ…

「いや、そういう訳にはいきません。それでは僕の気がすみません」

「はぁ……」

困ったな…まだ経験値が低すぎて、こんな風に断っても引いてくれないときに、どう対応したらよいのか分からなくなってしまう。

彼はそんな私をじっと見ている。

私は初対面の男性との思いがけないほどの近距離に戸惑ってしまい、二人の間にはなんとなく気まずい空気が流れていた。

この人、普通に日本語で話しかけてきたけど、日本人ってわかっていたの?と思いながら、正面に立つ人を見る。

それにしても綺麗な顔立ち…それに身長もすごく高い…とチラッと見上げてみてしまう。

あれ?…どこかで会ったような…?

一瞬そんな疑問が頭に浮かんだものの、こんなに素敵な男性に会ったことがあるなら、きっと忘れることはない…と思い考えることをやめる。
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