キスだけでは終われない
すっかり彼のペースに巻き込まれ、私は何も言うことができなかった。
なんだか、彩未ちゃんの着せ替えになっている時と同じ感覚だな、なんて呑気なことを考えながらお店を出た。
「あの、私の不注意でもあるんだし自分で支払います」
なんて言っても、笑顔で断られる。
ちょっと強引な人、それが彼の印象だった。
その後の予定を聞かれ素直に一人旅だから特に決めている予定はないと答えてしまったら「じゃあ、一緒に夕食でもどう」と瞬時に出てくる誘いの言葉。
急な誘いではあったけれど、一人では入りにくいレストランには今回の旅行中には行っておらず、テイクアウトやフードコートとルームサービス等で食事をすますことばかりだったため、物足りなさを感じていた。
「いいんですか?お仕事でこちらにいらっしゃるのではないですか?」
「この後仕事があって行かないといけないから、19時に待ち合わせでいいかな。ここにまた来て。楽しみにしてるよ。絶対、来てね」
と、手を振り爽やかにその場を離れていった。