キスだけでは終われない
ドキドキする…大きくて温かい手に包まれて、胸がキュッとなる。
レストランを出て綺麗な月を見ながら二人でホテルの庭を歩いていると、彼が繋いだ手に力を込めてきて、私の心臓がさらに鼓動を速める。
このままでいると、先ほど感じた彼への気持ちが本当に恋になってしまいそうで困ってしまう。誤魔化すようにお店の前で声を出す。
「シンガポールに来たらここのバーでシンガポールスリングを飲もう、なんて旅の目的でもあったんですよ。でも女性が一人でって入りづらくて、結局行かないままでした」
「有名だよね。ここがシンガポールスリングの発祥地なんだって。女性が飲めるお酒をって考えられた女性のためのカクテルだね。飲んでいこうか」
そう言うと彼は私の背中に手を当て、バーの中へと進めてくれた。
もしかして私から誘ってしまったのかな…なんて不慣れなことをしているのだろうと思うけど、まだ一緒にいたい、それが素直な気持ちだった。
カウンターに二人で並んで座り、彼が私のためにシンガポールスリングを注文してくれた。
彼はウイスキーを注文していた。
「改めて乾杯しよう」
「はい」
と二人でグラスを持ち傾ける。
一口飲むとジュースのように甘くて、つい二口目を運んでいた。
「美味しい…」
「それは良かった」
ニコリと目を細めて言われる。