キスだけでは終われない

バーを後にして外に出ると、輪郭のはっきりとした丸い月が空にある。
月の光に照らされて輝く目の前に立つ男性に酔わされていく…。
これ以上は危険と判断した私は視線を反らし話し出す。

「私、お酒が美味しいって思ったのも、こんなにお酒を飲んだのも初めてでした。本当にごちそうさまでした。また一つシンガポールでの思い出が増えました」

お酒で頬を赤くしているだろう私は少し熱い頬を手で押さえながら改めてお礼を言い、帰ろうと考え歩き出そうとしていた。

そんな私の手を掴まえてくる彼の手はとても熱く、そして強く握り私を引き寄せる。
月明かりに照らされて見える彼の妖艶さに目を奪われる。

…もう…抗えない…そう思った。

気が付いた時には彼の顔が近くにあり、私たちは唇を合わせていた。

…ファーストキス…なのに…不思議なことに嫌悪感なんて全くなかった。

月の光だけが届くホテルの角で、どのくらいキスをしていたのだろう。

片方の腕が腰に回され、二人が離れる気配は感じられない。
だんだんと呼吸が苦しくなり、顔を反らそうとすると顎に手を掛けられ捕らえられる。
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