キスだけでは終われない

「逃げないで…」と鼓膜を震わせるような彼の声を感じていると、両方の腕が体に回り強く抱きしめられる。唇を食むようなキスがさらに続けられる。

「……っ…うん…」

外でのことで誰かが見ているかも知れないなんて考えはすぐに消えていき、気がついた時には私は彼の服を握りしめていた。

二人の距離が少しだけ離れたと思ったら、彼は手を引き歩き出す。そして、彼が立ち止まったときにはある部屋の扉の前にいた。ここまで来て聞かれたのは彼からの確認の言葉。

「怖い?君が嫌だと思うなら、ホテルまで送っていく。…でも、いいかな」と部屋の鍵を手に持っていた。

…もっと一緒にいたい…
そんな気持ちを抱いていた私にノーという答えはなく、無言で彼の服を握っていた。

恋に憧れていた。でも、男の人が怖くて恋なんてできないと思っていた。

今までの自分を変えたいと思って来たこの地で、両親が出会ったときに感じた何かを自分も見つけられるのではと思ってしまった私は声にはならなかったが頷いていた。

部屋に入ると彼はすぐの壁に私を押し付けて先ほどより深く唇を合わせてくる。呼吸が苦しくなって息継ぎの合間に声が漏れる。

「う…っん…」

なんて甘い声を出すと、彼の唇が離れ頬に手を添えられる。

「名前、教えて…」

少しだけ離された唇が名前を催促しているように感じ「カナ…」と私は呟いていた。
もう何も考えられなかった。
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