キスだけでは終われない

彼の手が私の頬を包み、心配そうなその瞳に私が映る。

「優しくしたいと思う。君が嫌だと言うなら途中でも止める。無理やりするのは主義に合わない。だが、やめたくない…やめられそうもない」

キスの合間に熱い瞳で見つめる彼からの懇願と感じられる思いが肌から伝わり、彼の頬に手を添えると再び唇を重ねられる。
彼の優しさに触れたと分かると小さく首を縦に振っていた。

…怖くない…私に触れる初めての男性がこの人なら、怖くはない…。

いつもなら当てにならない私の直感がこの人なら、と感じた瞬間だった。

初めて知る痛みはすぐに消えていく。体が深く繋がると思いまで深くなっていき、心も体も満たされた。


彼に抱かれ人肌の温かさを知り心地よい睡魔に襲われる中で、彩未ちゃんの言っていた恋をして自分に自信を持つことができたような気がしていた。

きっとこれが私の初めての恋だと思った。

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