キスだけでは終われない
守ってあげたい…そんな気持ちを初めて知った。
俺は男たちを追い払うと抱きしめたくなる気持ちを抑え、そっと震える手だけを包んだ。彼女が落ち着くまでは側にいようと、分刻みだったはずのスケジュールを頭の中で調整した。
肩に手を回した時に触れた彼女の華奢な体、鼻を掠めた彼女の香り、その時に聞いた彼女の声も耳に心地よくて、次の予定が詰まっていたことが残念で仕方なかった。
ようやく声を出せるようになった彼女は第一印象の通りで、きちんと気を遣える子だった。最後まで目を合わせてくれることはなかったが、これ以上の時間は取れないこともわかっていたため別れた。
彼女と別れて数時間後に、自社が経営しているホテルのエントランス近くで彼女が女性と一緒に歩いているところを再度見かけた。その時は先ほど見られなかった彼女の笑顔を見ることができた。一瞬目が合ったように感じられ柄にもなくドキっとしたことを思い出す。
あんな風に笑うのか…と思うと今度は彼女の視線だけでなく、笑顔までもが欲しくなる。彼女は俺とは気がつかなかったかもしれないが、またすぐに会えたことに勝手に運命めいたものさえ感じていた。
彼女に声を掛けたいと足を向けたところで、ちょうどスマホに着信があり電話に出た。
しばらく話していたところで彼女がいた辺に目線を送るが彼女の姿はなく、そこで見失ってしまった。
辺りを見回すが見つけられず、俺の頭の中に残った彼女の眼差しと声、そして笑顔が記憶の中にしっかりと焼き付いた。