キスだけでは終われない
きちんと言葉を交わしたのは昨日が初めてだったが、彼女の声は本当に耳に心地良く、笑った顔は見ているだけで癒された。
一緒にいれば思いは膨らむばかりで、少し酒に酔った彼女の赤くなった頬が可愛くて可愛くて触れたい衝動を抑えることに必死だった。
そんな彼女が明るく丸い月を見て『綺麗…』なんて呟くものだから、かの文豪が『I Love You』の代わりに使ったという言葉をつい言いたくなってしまった。
俺は月ではなく月を映す彼女の瞳を見つめて囁いた。
「月が綺麗ですね……」
彼女は風に靡いてきた髪を耳に掛け、月を見ながら答えてくれた。
「ええ…本当に綺麗…。感動を分け合うって素敵なことだと最近気がついたばかりなので…。一人ではなくて、誰かと一緒にこんなに綺麗な月が見られて嬉しいです」
彼女の柔らかい声が耳に届き、続いて彼女の視線が月から俺へと向けられる。
ゴクッ、と唾を飲み込んだ。
俺はこの瞳の中に自分が映されたことに歓喜し、気がついた時には彼女に近づきキスをしていた。
この言葉の意味『I Love You』を彼女が知っていたのかは定かではないが、彼女からの返事で俺の理性は崩壊した。