キスだけでは終われない

「好きだ。絶対に離さない。ずっとそばにいてほしい」

隣で眠る彼女の髪を撫でながら「愛してる」と囁く。今まで女性に対して抱いたことのない感情が内から溢れてきて、心のままに出てきた言葉だった。

俺はまだしばらくは日本には戻れないが、たとえ遠距離になったとしても、彼女は絶対に放さないと強く自分に誓っていた。

いつの間にか自分も眠気に襲われ、彼女を抱きしめながら幸せに満たされ眠りについた。

翌日には日本に戻ると話していた彼女の連絡先を朝食を一緒に取りながら聞こうと考えていたのに、起きたときにはその彼女がいないなんてまったく予想外の出来事だった。

「くそっ。名前までは聞き出すことができたのに。なんで連絡先を先に聞いておかなかったんだ」
自責の念にかられるばかりだ。

「そういえば彼女は俺のことを覚えていないようだったな…」

俺の記憶の中にしっかりと残っている彼女。カナは男性に対して苦手意識というか、恐怖心のようなものを持っていそうだと思っていた。
でも、昨日の様子では戸惑いこそあっても怖いという感じはなさそうだった。それが俺だったからだと思いたいところだ。
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