キスだけでは終われない
いつまでもあの部屋に1人でいることが虚しくて、今日は午後まで予定を空けさせていたはずなのに、いつもより早くオフィスに着いてしまった。
自室に入るとすぐに秘書の山城和樹が続いて入ってきた。
「よう、おはよう。ずいぶん早いな」
「……あぁ。おはよう」
と元気なく答える。
「なんだよ。今日は『午前中は予定を入れるな』なんて言っていたくせにやけに早く出勤したな」
彼は俺より一つ年上で父の姉の息子になる。子供の頃から兄弟のように仲がよく、数いる従兄弟の中でも一番頼りになる。
いつもなら朝は今日の予定を確認されるのだが、今朝はオフィスに着くなり昨夜のことを聞かれた。
この時間にここにいることで何かを察していたようだが、落ち込みようが気になったのだと思う。
「そうだな…。はぁー…」
机に肘をつき組んだ手の甲に額を載せ、ため息をつく。
「ため息をつくと幸せが逃げるぞ」
「逃げたのは彼女だよ」
そう言い返すと、彼は笑いだした。
「アハハ。朝起きたら一晩過ごした女性に逃げられて落ち込んでるって。いつもお前がしていることをされたってか。まぁ、自業自得だな」
ショックで放心気味の俺には耳に痛い。
…はぁー……。