キスだけでは終われない
大きくため息をつく。
彼は若干呆れながら話を続ける。
「どうせ今回の女もお前の顔か金が目当ての女だろうから、今さら落ち込むなよ。今まで女性に対して冷めていたのはお前の方なんだからな。まったく急にどうしたんだかな」
そう言われれば立ち直るとでも思っていたのか、俺をよく知る彼なりの気遣いかもしれない。
「今回は違う。彼女は俺のことを知らなかった。俺から声を掛けた。俺から誘った初めての女性だぞ。横浜で初めて会ったあの日から、ずっと記憶の中で彼女のことが積もっていたんだ。だから、かなり本気だったんだ」
さらに大きなため息とともに項垂れた。
そう、自慢ではないが俺の顔は女性受けする。併せて、須藤ホールディングスの後継者という立場からも言い寄られることが多い。
自分から追いかけたい、掴まえたいと思った初めての女性に逃げられるとは考えてもいないことだった。
俺は彼女に惹かれたあの時からずっと彼女の面影を記憶の中で繰り返し上書きしていたので、その分想いを積もらせていた。