キスだけでは終われない

「そもそもいつもならわざわざ他所のホテルに行かないだろう。それに離したくないって思うなら、うちの系列のホテルに連れ込めばいくらでも職権使って囲い込めたんじゃないのか?」

「職権って…お前な…」

普段の俺なら面倒がって自分のホテルのスイートにでも連れていき、先に俺が部屋を出てくるということを知っていて言ってくるから余計にムカッとなる。

「俺の名前とか立場とかそういうのではなくて、俺自身を見て欲しかったんだから、自社のホテルになんか連れてくる訳ないだろう」

「まぁ、連れてきてたら従業員が皆挨拶してくるし、お前は誰なんだって思うよな」

「…なんで彼女が腕の中から抜け出たことに気づけなかったんだ」
後悔の気持ちが口から溢れた。

「まぁ、普段眠りの浅いお前にしては珍しいよな」なんて言われて、彼女を抱きしめていることがいかに安心して眠れていたのかが分かる。

考えれば考えるほど彼女との繋がりが途絶えてしまったことが悔やまれた。

その日は午後になっても彼女を思い出してはため息を連発していた。
仕事にも集中できず会議でも精彩を欠いていたのは明らかで、和樹からお小言が落ちてくる。

「だいたい今まで自分が散々一夜だけの付き合いをしてきた結果だろ。珍しく自分がされたからって仕事に支障が出るようなことはするなよ」

もっともだ、されてみて初めて過去の女達に対してどれだけ酷い男であったかを知る。

もう二度とそんなことはしない。
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